大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和31年(く)43号 決定 1957年2月08日

少年 B(昭和一一・五・二四生)

抗告人 少年B

主文

本件抗告はこれを棄却する。

理由

本件抗告理由の要旨は原決定には重大な事実の誤認があるというに在り、その詳細は別紙のとおりである。

よつて本件記録を調査して按ずるに、A子の司法巡査に対する昭和三一年一月六日付供述調書、同女の司法警察員に対する昭和三一年二月二〇日付供述調書、Eの司法警察員に対する昭和三一年二月二一日付供述調書、Bの司法警察員に対する昭和三一年二月二七日付供述調書、同人の検察官に対する昭和三一年三月二日付供述調書、医師大川淳作成のA子に対する診断書、司法警察員古宇田竹太郎作成実況見分調書の記載を綜合すれば、原決定の摘示する如く少年が昭和三一年一月四日午後六時頃、茨城県○○郡××町大字△△所在△△小学校北側校舍の裏出入口に通ずる渡廊下において、同町大字×××○○○○番地の○A子(当時一九才)の胸倉をとつて数回引つぱり同女が少年の取る手を振りはなそうとするやこれを押し放して同女を床上に転倒させ因つて同女の右側頭部及び左前膊部に全治迄約一週間を要する打撲傷を与えたものである事実は優にこれを認めうるのであつて、本件記録を精査しても右認定に誤認ありとは認められない。

ところで原決定は右傷害は少年がA子を強いて姦淫しようとして与えたものとは認めていないのであるが、兎に角右傷害は少年がA子に話があるというて嫌がるA子を右校舍内に引き入れ、逃れようとする同女の手や胸倉を捕えた結果生じた傷害であることは右書類によつて明白であるから、少年は原決定の認める如くA子に対する傷害の責任はこれを負わなければならないのである。

而して、本件少年の性格、素行、経歴、境遇等諸般の事情を参酌すれば、原決定の処分は相当である。

よつて原決定には所論のような重大な事実の誤認はもとより存在せず、又処分の著しい不当の存するものとも認められない。論旨は理由がない。

よつて本件抗告はその理由がないから少年法第三三条第一項によつてこれを棄却すべきものとして主文のとおり決定する。

(裁判長判事 久礼田益喜 判事 武田軍治 判事 石井文治)

別紙一 抗告理由

水戸家庭裁判所土浦支部、裁判長坂井五郎、昭和三十一年第(少)一三九号によるAに対するBの強姦致傷の審判の結果傷害の事実認定の上保護処分の決定を受けたが右決定は次の理由により重大な事実の誤認があるので抗告します。

理由

一、少年は傷害の事実は否認している。

二、少年の行為と傷害との間には因果関係はない。

(1) 医師大川淳作成名義のA子に対する診断書と同A子に対する司法警察員警部補古宇田竹太郎作成の供述調書とは傷害の部位についても重大なくい違いがある。

即ち診断書によれば病名「右側頭部及左前腰打撲傷全治一週間を要する」となつているが供述調書によれば第七項に「今度は左の足首附近をつかんで強く引張られたので私は頭を校舎の方にして仰向けに、強く倒されてしまいその時に校舍に上るコンクリの階段に頭の後と背中を強く打ちつけてしまいました」との供述と第八項に「生意気だというより早く左手で私のオーバの胸をつかんでいて右手で私の右の頬を四回平手で殴りつけて来てそれから私は倒されてしまいました」と供述しているが右の供述によつてはコンクリトの階段へ左足をもつて強く引張つて倒したのであるから後頭部背中に相当な傷害が生ずべきのみならず頬にも生ずべきである。到底診断書による。部位には傷害は考へられない。

(2) A子は供述書第九項に於て「雨の中を引ずられたので泥で体中どろどろに汚れ云々」と供述しているが少年とA子がもみ合つたと称する場所は渡廊下で戸外ではなくその様な結果の生ずることはなく当夜A子はK(情夫)が来たので逃げたのであるから急ぎあわてて自転車にスピードがあつたと思はれる。尚雨中無灯で山道や田圃道を自転車にのつて帰宅しておりその為悪路の上暗いので転倒して診断書のような傷害を受けたことも推測されるのに右の少年の主張については何等の調査もされていない。

(3) 町内駐在所巡査横田節夫作成の一月六日の供述調書と司法警察員警部補古宇田竹太郎作成の二月二十日の供述調書とは即ち一月六日の供述の十項と二月二十日供述の七、八項とは最も重要な所であるが甚しく違つている又あいまいな供述で一貫していない此れは嘘を云つているからである。

三、原告側の金円にかけたと思はれる不審な行動

(1) 原告A子が帰宅してから四十分位立つてから被告宅へ通告に来た。

(2) 被告は保護監察期間中で絶対非行はない俺が行くとかけ出したが非行が無くても不利であるからと家人に止められた、父母兄等入れかはり六時間以上に及び謝罪し母は位き泣き手をついて謝罪したががんとして聞き入れない。

(3) 近所・部落有志が原被告とも前途ある身であるからと円満なる示談解決に奔走したが聞き入れずしかし警察へは届けないとの事。

(4) 最後に陳謝文でかんにんするとの事なので書いてもつて行くと意味がなさないと返され良く書いて来いという事になりたり

(5) 陳謝文ですむ事ならという事で(被告は否認)考へてかへていると十五分位たつと相手側の人が話があるから来てくれという事になりたり。

(6) 早速いつて見ると相手がいうには「池端(隣町で二粁位)の親父に行つて話した所三日間陳謝文をのべる予猶をする、しかし警察には届けない」との事。

(7) 池端まで行つて此の話をして帰つて来られる(十五分位)時間ではないまして真夜中で雨後の為悪路であるから

(8) 相手側は此の診断書は何時になつても使へるからと(被告側としては金を持つて来いと云ふ意味にとれた)強迫同然であつた、田舍では此の様な例で三万五万と取られている例がある最近では同部落内で五万円ときいている。

右の様な事にて交渉は打切られ部落の有志各位も此れは金を取る計画であるから被告が保護監察中で非行恐れある少年として不利であつても真実を以つて事件を解決すべきで原告側のあまりある悪らつな行動は少年保護者の弱みにつけこんだ金円により賠償を求める半強迫的計画である若し裁判所の決定が默認されるならば保護司T(町内)にきいてもわかると思ふが真面目にやつて居り更生しようとしている少年に因果干係のない罪名を着せる事は少年の精神的に真面目になつても信用がない駄目だ再び悪へ走るもとともなりかねない保護者として甚だ遺憾である非行の恐れある少年だから監察期間中であるからとの前提でかかる先入感で完全な調査もせずに決定する事は、保護者として納得が行かない化学的物理的に保護者の納得の行く調査をお願ひします。

以上の様な理由で本件の事実は少年がかつて保護処分を受けた事を良い事にして虚偽の事実をもつて金円による賠償を求めることを計画的に行つたもので不当である。(少年 B 保護者代理人 S)

別紙二 原審の保護処分決定

主文及び理由

主文

少年を水戸保護観察所の保護観察に付する。

理由

一、罪となるべき事実

少年は、昭和三十一年一月四日午後六時頃○○郡××町大字△△所在△△小学校北側校舎の裏出入口に通ずる廊下において同町大字×××○○○○番地の○A子(当十九年)の胸倉をとつて数回引つぱり同女が少年のとる手をふりはなそうとするや押し放して同女を床上に転倒させ、よつて同女の右側頭部及び左前膊部に全治まで一週間を要する打撲傷の傷害を与えたものである。

二、罰条

刑法第二百四条

三、主文掲記の保護処分に付した理由

少年は近く二十歳に達するものであるが、その性格非行歴及び環境の状況に鑑みるとき、少年の改善と更生を図るためにはこれを保護観察処分に付し今後相当期間にわたり保護観察所の指導監督補導援護下におく必要があるものと認めるので、少年法第二十四条第一項第一号を適用して主文のとおり決定する。(昭和三十一年五月十六日 水戸家庭裁判所土浦支部 裁判官 坂井五郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例